売るのは酷だが金になる

Calcio e Finanzaの記事を元に、ローマの財務特集の第2弾を書く。

 

www.calcioefinanza.it

 

 

第1弾は以下の記事である。

 

schumpetercalcio.hatenablog.com

 

 

15/16のおさらい

ローマはUEFAと締結したsettlement agreement(和解協定)により、14/15と15/16の2期にわたり損失を€30Mに抑えなければならなかった。ローマがそれぞれの期で計上した純損失は、€41.166M€13.984Mだった。これらを足せば€30Mを越えるので、ローマはUEFAとの合意を反故にしたことになるのではないか。だが、実際にはそうはならなかった。FFPにおいてはスタジアムや練習場の建設と改修、ユース育成などにかかった費用は除外されるからだ。かくしてローマは16/17において制裁を回避したのである。
なぜローマが純損失を€14Mほどに抑えることができたのか。理由は3つある。第1に、CLのGL突破である(決勝トーナメント1回戦でレアル・マドリードに敗退)。CLの放映権収入で€77.5Mも稼ぎだした。第2にピャニッチユヴェントス移籍である。売却益は€28Mだった。第3にロマニョーリミラン移籍が挙げられる。ローマは€23Mもの売却益を得た。もはやローマにとってCL出場と選手売却が生命線なのだ。

 

16/17の状況

ローマは前2シーズンで損失を€30Mに抑えたものの、まったく安心できる状況にない。settelement agreementにはもう1つ重要な条項がある。17/18までに収支をイーブンにしなければならないのだ


マウロ・バルディッソーニGDは冬のメルカート期間に以下のように語った。
「選手を売却してから資金を投入することが、FFPの規則を守りつつ高いレベルの競争を維持する方法である」
これを一言に要約すれば、「売ってから買う」である。実はミランメルカート方針と同じである。この方針を採らざるをえない理由は2つある。それは前シーズンの裏返しでCL予選の敗退と売却益の少なさである。


まずはCL予選の敗退について触れよう。15/16に3位でシーズンを終えたローマは、16/17のCLの予選でポルトと対戦し敗戦を喫した。そのためELの出場に回ることになったが、このことが昨シーズンのように€77.5Mも得ることを難しくしている。まずCL予選の参加で€3M、その敗退で€10M(market pool*1から)を手にしている。そして、ELの参加給として€2.6M、GLの3勝3分で€1.44M(1勝あたり€0.36M、1分あたり€0.12M)、1位のボーナスとして€0.6Mを得た。それから優勝すると仮定すると、さらに€10.35Mも賞金が増える(決勝トーナメント1回戦進出で€0.5M、決勝トーナメント2回戦進出で€0.75M、準々決勝進出で€1M、準決勝進出で€1.6M、優勝で€6.5M)。つまり、CL予選からの敗退後、3勝3分でGLを突破したローマはELで優勝すると、€27.99Mを獲得できる。この計算ではELのmarket pool*2を無視しているため、値はさらに増えるものの、その規模はCLのそれに劣るため、€77.5Mには到底及ばない。


次に売却益について述べる。15/16に売却益・売却損の項で€77.5Mを計上したものの、16/17ではリャイッチサナブリアクレッシェンツィの売却でまだ€8.5Mしか売却益がない

ヤーゴ・ファルケの売却もそれらに加えわずか€0.3Mの売却益しかもたらさない。


収益の足りないローマの対応策として3つの手がある。
新規のスポンサー契約、既存の契約の更新で商業収入を増やす
冬のメルカートは買い取りオプション、買い取り義務が付帯したレンタルで費用の計上を17/18に先送りにし、CL出場あるいは選手売却でその分を埋める
給料と減価償却*3が大部分を占める販管費を抑える(その2つが15/16の売却益を除いた売上高の85.7%を占めた)
②に関して言えば、リヨンから買い取りオプション付きレンタルでグルニエを獲得している。
③に関して言うと、まず給料は減少している。昨シーズンは€110Mほどかかった給料もLa Gazzetta dello Sportによれば€97Mに抑えられている。一方、減価償却費はジェルソンエル・シャラーウィリュディガーアリソンヌーラサディクギョンベールの完全移籍によって€2.5Mほど増加している。他にレンタル費用は€16.9Mから€8.2Mに減少するも、レンタル収入は昨シーズンとさほど変わらない€6.7Mを計上した。

 

17/18に向けて

夏のメルカートでローマは昨シーズンと同様に大きな売却益を生み出せる、つまり、売却額と帳簿価額の差が大きい選手を犠牲にするだろう。その条件に当てはまる選手はナインゴランマノラスストロートマンリュディガーパレデス、フロレンツィである。ただフロレンツィがローマから離れることはありえないので、実質は彼を除いた5名であろう。それぞれの帳簿価額は、€6.758M€6.413M€6.9M€4.028M€3.655Mである。売却額から帳簿価額を引いた値が売却益であるから、マノラスを例にとると、仮にローマが彼を€45Mで売却すると、€38.587Mもの売却益を計上できる。

 

結論(私論)

ローマは苦しい。質のいい選手を抱えながら毎年、誰かを犠牲にせざるをえない構造的欠陥を抱えている。新スタジアム建設が遅々として進まない*4状況にある以上、

商業収入を増やす

毎シーズン、CLで一定の成績を残す

という2点が生き残りのキーポイントとなる。

 

財務面から見れば、少なくとも数年はユヴェントスが覇権を握り、古きパトロン型経営でありながらFFPに順応しているナポリがそれに追随するであろう。その体制に風穴を開けられるのは、FFPが遵守できた場合のインテルとクロージングが成功した場合のミランだ。ローマは先に述べた課題をクリアし続けない限り、3番手から落ちることは大いにありうる。

*1:CLのmarket poolについては、以下のニュースを参照

jp.uefa.com

*2:ELのmarket poolについては、以下のニュースを参照

jp.uefa.com

*3:下記のツイート参照

*4:下記のツイート参照

「頑張ってや」「ほな」以外は事実である