ステーファノ・ピオーリ「4-4-2におけるサイド・チェーン」 後半

ステーファノ・ピオーリがUEFA Pro Licenceの講座(2002-2003)を修了するにあたって執筆した論文の日本語訳の後半部分である。さしあたり画像はオリジナルからトリミングしたものを使用する。前半部分は以下からお読みいただきたい。


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5. 攻撃の局面
テクニックを素早く実行する能力、どんな技術的・戦術的な状況も読む能力を備えたうえで動くスピードは、効率的な攻撃の発展を意図するすべての監督から選手に求められる性質なのだ。
選手に動きを教えて仕込むことが必要である。それはオフ・ザ・ボールで主導権を取り、共通の戦術的意図を持つためにこうした動きを連結し同期したものにすることが目的である。
我々の時代のカルチョはますますダイナミックなものになり、プレイするスペースと時間はますます小さくなる。よって、オフ・ザ・ボールの動きと思考速度はどんな攻撃のプレイでも、それを教えるのに重要な要素になる。
攻撃の局面で協力するということは、動きをなすことだ。つまり、攻撃の展開により多くの可能性をもたらすように常に前後でサポートをすることを目的に、ボールを持つ味方のために絶え間なく動くことだ。
速いパスの重要性を知ること、できるだけピッチが見えるように身体の向きを作れること、相手の逆を取る動きによって正しいタイミングでマークを外すことは、担うポジションと採用するシステムに関係なく、各選手の資質とは切り離しがたい能力だ。
パスとオフ・ザ・ボールの動きは同時でなければならない。
重要なのは、ボールを持たない味方が思い通りの方向にスピードに乗って走ることでパスを要求するということ、そして、その逆は言えないというのを選手に理解させることだ。
ボールを持たない選手が即座に理解しなければならないのは、ボールを持つ味方がプレスを受けて苦しい状況にあると、前後にサポートの動きをする必要がある一方で、味方にプレイするスペースと時間がある場合には、前に陣地を稼いで動かねばならないということだ。
この場合、相手の逆を取る動きによってマークを外す動きを用意せねばならない。つまり、ボールが味方に渡る間に、ランによってそれまでいたゾーンから離れ、次に味方がパスを出せるときに、スピードと方向を変えて空いたスペースへ移動する。
有効かつ多彩な攻撃を進めるために、サイドを最大限に利用できることが重要だ。
サイドをスピードと驚きによって支配することで、相手のディフェンスの距離を広げさせないと、中央に集結した相手のディフェンスを打破することは難しくなる。
攻撃の局面において、オフサイドトラップを回避させる連結し同期した動きによって、常にサイドは支配せねばならない。
4-4-2のシステムにおいて、この課題は明らかにサイドの「チェーン」が解決せねばならない。そのために、正しいタイミングで秩序立って動かねばならず、様々な状況で自分たちのサイドに近いフォワードの前でのサポートを利用してもよい(図10)。

図10
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すべての解決策において重要なのは、練習できる時間を守ることだ。まずは3人の自由なコンビネーションの練習から始める。時間とスペースという要素、「視界に入る者とプレイせよ」というコンセプトと前後のサポートに基づいて3人が動く(図11)。次に行う練習は、最終目標に変化をつけることも含めたポゼッションの練習である。

図11: 3人のコンビネーション
Aから受けたパスをBはゴールに背を向けて受け、後ろにサポートに来たCに出す。Cは裏のスペースに侵入するAにパスを送る。
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精神力動的練習(訳者註: 状況を把握し読む能力、本当に重要なことに注意を向ける能力と予測する能力、つまり、解決策をできるだけ素早く見つける能力を引き立たせる練習)もまた、そのあらゆる多彩な応用練習において、非常に重要である。なぜならばその練習によって選手にまず見て考えることを強いて慣れさせ、結果として思考速度が上がるからだ。
次に、私は相手選手のいない攻撃の設計図を立てて、その局面の練習をする。サイドの「チェーン」が重要になる様々な解決策を試し、特に練習時間と動きに注意を払う。

図12: サイドバックのオーバーラップ
2人のセンターバック5番と6番はパスを回す。サイドハーフの11番は中でボールを受けるために、相手の逆を取る動きをかける。そして、11番は後ろにサポートに来た8番にパスを出し、8番はサイドを駆け上がる3番に展開する。

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図13: サイドハーフの中から外への動き
7番がパスを受けるために中に絞りつつ、ボールを持つ4番はサイドバックの2番にパスを出す。7番は動きの速さと方向を変えることで、また開いてサイドでボールを受ける。

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図14: インサイドハーフの飛び出し
11番は8番から離れてから近づく動きをしてパスを受ける。11番は後ろにサポートに来た3番にパスを出し、3番は外に動く8番に展開する。
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図15: インサイドハーフのオーバーラップ
11番は中に入って3番からパスを受け、そのまま中にボールを運ぶ。インサイドハーフの8番が11番を追い越す間に、トップの10番は動いて11番からボールを受けて8番に出す。
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図16: 反対のサイドハーフのフィニッシュ
4番からパスを受けた8番は、中に入ってきた11番にパスを出す。トップの10番と9番は7番の飛び出しのためのスペースを作りながら動く。
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図17: サイドハーフとトップの交差
4番からボールを受けた2番は裏のスペースに走る9番にパスを送る。7番はクロスを受けに中へ走り込む。2番は9番の後ろのサポートに回る。
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図18: サイドハーフセンターハーフのポジションチェンジ
10番は3番の前にサポートに回ってボールを受ける。11番と8番は10番に2つの選択肢を与えるために、ポジションチェンジをする。
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図19: 反対のセンターハーフのフィニッシュ
2番により近いトップの9番が裏に走って相手のマークを外す。セカンドトップの10番は動いて2番からパスを受け、7番はその後ろに入ってパスをもらい、飛び出した8番に出す。
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図20: 深いサイドチェンジ
プレスをかけられ詰まった(という想定の)7番からパスを受けた4番は、中から外への動きの後に裏に走る11番へパスを送る。
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図21: 後ろにサポートに来たセンターハーフと裏に走るサイドハーフ
2番の方に動いてボールを受けた9番は、後ろにサポートに来た4番にパスを送る。4番は裏に走る7番にパスを出す。
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次に、数的優位の状況下で相手を入れた練習と相手を置かない練習とを交互にすることで、攻撃の動きの展開を追求できる。彼らはディフェンスによる攻撃の開始を邪魔するフォワードだけでなく、フィニッシュの段階を阻止するディフェンダーでもよい。連続的な動き、パススピード、プレイヴィジョンと攻撃の局面における協力を追求するために、こうして11対7を戦うことになってもよい(図22)。

図22
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6. 結論
チームのプレイの展開に関してここに述べられた解決策は、1試合で作ることができるであろう無数のコンビネーションの最小部分にすぎない。
とりわけ動く時間とスペース、選手間の協力に配慮した練習の難易度を絶えず上げていくことで、選手個々が最大限に能力を発揮できるようなプレイの考えとメンタリティを監督が伝えることができる。
能力、考え、バランスと情熱はあらゆる監督に重要な資質である。
我々の課題は、日々の仕事に熱中する文化をうまく伝えることだ。それなしでは重要なことを達成するのが難しくなる。
カルチョにおける多くの常套句の中で、私が真実であると考える1つが「1週間の中で練習しているように日曜日に試合をしなさい」というものだ。
集団がすべての練習を真面目に熱中して激しくこなすならば、常に勝つことができるということをその常套句は意味していない。しかし、常にチームをあらゆる状況に対して準備が整い、鍛えられ、集中したものにするという意味なのは間違いない。
選手は主役であり、自分に課されたことに完全に納得しなければならない。チームの効果的な組織化のためには、そうすることでしか選手は完全にチームに参加しており、監督にとって起用可能であるとは言えないのだ。
技術的・戦術的価値を越えた、最も刺激的な点はうまく選手の「頭の中に入り込む」ことと、一緒に働き成長し向上するのを望む集団に所属していることをうまく選手に共有させ自覚させることだ。
明らかなのは、うまい選手だけでなく特に賢く利他的で野心のある選手も手元に置いておくことで、我々の課題がより単純になり、華麗かつ効果的で優れたカルチョを生み出すのに貢献しようとすることがより容易になるであろう。