2017/18のミランのメルカートを妄想しよう

昨日、L'Avvocato del Diavoloというイタリア人のミラニスタが数人で運営しているブログに、ある記事が公開された。その内容はメルカートにおける取引が財務に与える影響について計算する表(Excel)を公開したので、皆が各自で思い思いのシミュレーションをしてほしいというものだった。今回、ブログの管理人であるFelice Raimondi(@IlReDellEst)氏から日本語版を作成してよいという許可をいただいたので、この記事ではその使用方法について書く。表は記事の最後にあるリンクからダウンロードしていただきたい。

https://avvocatodeldiavoloblog.wordpress.com/2017/05/15/cruscotto-mercato-tu-sogni-lui-calcola-lunico-limite-e-la-fantasia/

目的

移籍市場に関して計上される主要な収益・費用である減価償却*1給料*2売却益*3の3点をシミュレーションすることである。移籍市場における楽しみと言えば、どういう選手を獲得するか妄想することである。そこで、この表は数字という客観的なデータに基づき論理的に導き出した妄想を展開することを助けるツールとして機能する。

獲得

「獲得」というセクションの説明に入る。9つの項目を左から順に説明する。

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①選手名
獲得したい選手名を記す。

②レンタル
レンタルで獲得する選手については、セルに1と入力する。そうすると、PREST(レンタルを意味するイタリア語prestito)が表示される。

③獲得額
選手の獲得に要する金額を記入する。レンタルで獲得する選手についてはレンタル料を記入する。合計は完全移籍による獲得額の合計が自動的に算出される。

④手取り
手取りの給料を記入する。

⑤額面
④に値を記入すると、自動的に値が出る。式は「手取り×1.8」である。

⑥支払回数
1から5まで分割払いの回数を記入する。

⑦契約年数
1から5まで契約年数を記入する。

減価償却
③で入力した値を⑦で入力した値で割った額が自動的に算出される。

⑨支払額
1回分の支払額、つまり③で入力した値を⑥で入力した値で割った額が自動的に算出される。

売却

次は「売却」のセクションについて説明する。また、「売却可能」というセクションについても同時に言及する。「売却可能」という部門には2017/18の移籍市場が始まる2017年7月1日ミラン保有している選手の減価償却費・簿価(2017年7月1日時点)・給料(手取り)*4が記されている。「売却」の部門に記入する選手は「売却可能」の部門から選び出すということになる。

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①選手名
「売却可能」のセクションにあるリストから選手を選ぶ。

②レンタル
他クラブにレンタルする選手については、セルに1と入力する。そうすると、PRESTが表示される。

③売却額
売却額を記入する。レンタルで譲渡する選手についてはレンタル料を記入する。合計は完全移籍による売却額の合計が自動的に算出される。

④売却益(損)
③で入力した値から⑤で入力した値を引いた額が自動的に算出される。

⑤簿価
減価償却
⑦手取り
「売却可能」のセクションからコピペをする。

⑧額面
⑦に値を記入すると、自動的に値が出る。式は「手取り×1.8」である。

残高

最後に「減価償却費合計 2016」「差引残高 2017/18」「資産残高」のセクションを説明する。

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減価償却費合計 2016」
2016年度(2016年1月1日から2016年12月31日まで)に計上した減価償却費の合計である。つまり、所与の値である。

「差引残高 2017/18」
減価償却
獲得する選手にかかる減価償却費の合計から売却する選手にかかる減価償却費の合計を控除した値である。つまり、これが正の値である場合、前年度より減価償却費が増加することを意味する。一方、負の値をとる場合、前年度より減価償却費が減少することを意味する。

②額面
獲得する選手にかかる給料(額面)の合計から売却する選手にかかる給料(額面)の合計を控除した値である。残りは①の説明と同じことなので、省略する。

③売却益
売却益の合計である。

④レンタル
選手の獲得に要したレンタル料の合計から選手の譲渡に要したレンタル料の合計を控除した値である。

「資産残高」
①2016
2016年12月31日時点で計上された選手登録権の簿価の合計である。つまり、所与の値である。

②2017
2018年6月30日*5時点で計上される選手登録権の簿価である。自動的に算出されるが、その方法は以下の通りである。なお冬の移籍市場については考慮していない。

2018年6月30日時点で計上される選手登録権の簿価=A+B+C
A=「2016年12月31日時点で計上された選手登録権の簿価の合計」-「売却する選手の簿価の合計」*6
B=「獲得額の合計」-「獲得する選手にかかる減価償却費の合計」*7
C=「2016年度に計上した減価償却費の合計」/2*8

最後に

表に記入されている選手名や値はすべてオリジナルに元々記入されていたものであり、私の予想ではない。間違いや不明な点があるとすれば、すべて私の責任である。そうしたことがあれば、Twitterで聞いたりこの記事にコメントを書いたりしていただけるとありがたい。
クラブの計算書類が公開されている場合は、ミラン以外でもシミュレーションが可能である。自分の愛するクラブのHPにアクセスし、Invester Relationsのページを探してみてはどうだろうか。
この表を通じて皆様のメルカート談義が盛り上がれば幸いである。また、自分の愛するクラブの財務状況にも目を向けていただけるようになれば、それほど嬉しいことはない。

移籍市場シミュレーション2017-18完成版.xlsx - Google ドライブ

*1:建物や機械といった資産は使用するにつれてその価値を減じていく。したがって、そうした資産の取得に要した金額は、その資産の使用期間の全期間にわたって分割するべきであると考えられる。そうした資産を一定の方法により各年度に費用を配分する会計手続きを減価償却という。選手を登録する権利(以下、選手登録権)も減価償却資産に該当する。この場合の減価償却費は取得価額(移籍金+コミッション)を契約年数で割ったものである。契約の途中で選手が契約延長した場合は契約年数が増えるので、減価償却費は減少することになる。下部組織から昇格した選手の取得価額は0である(コミッションを計上した場合を除く)。

*2:もちろんクラブが負担する分なので、手取りではなく額面である。

*3:売却額から簿価(取得価額から減価償却累計額を引いた額)を引いた値である。簿価のほうが大きい場合は売却損となる。

*4:データはLa Gazzetta Dello Sportによる。

*5:明後日の5月18日に招集される株主総会にて決算期の変更が決議される。前の親会社であるFininvest S.p.A.に合わせて12月となっていた決算月が6月となる。そのため、2017年1月から6月までに計上した減価償却費を考慮に入れる必要がある。

*6:売却した資産の価値を減ずるというだけのことである。ただし、2017年1月から6月までにするべきである減価償却が無視されているので、Cの項でそのずれを調整することが必要である。

*7:2018年度6月期に増えた選手登録権という資産から、当該資産についてその期に計上する減価償却費を引いた値である。つまり、2018年6月期における選手登録権の純増額である。

*8:2017年1月から6月までに計上した減価償却費である。